公共用地の買収に伴う用地交渉では、土地等の譲渡や補償金の受け取った結果の影響について、被補償者等に説明する
必要がありますので、解説してみました。
荻原不動産鑑定事務所
所得税(譲渡所得)
1.起業者からの最初の買い取り申し出を受けた人が、買い取り申し出日以後6ヶ月以内でかつ同一年にその土地を譲渡した場合には、
次の優遇措置のうちどちらか一方を選択して受けることができます。
(イ)5,000万円特別控除
起業者からの最初の買い取り申し出を受けた人が、買い取り申し出日以後6ヶ月以内でかつ同一年にその土地を譲渡した場合、譲渡所得金額から最高5,000万円まで控除されます。
この特例を受けるためには、起業者が事前に税務署と協議して「譲渡所得の課税の特例の適用に関する確認」を受けるほか、被補償者は起業者から発行される「公共事業用資産の買取り等の申出証明書」および「公共事業用資産の買取り等の証明書」を確定申告の際に添付して税務署に提出して申告する必要があります。
譲渡所得金額が5,000万円以内なら非課税であり、5,000万円を越える部分については軽減税率が適用になります。
収用等の長期譲渡所得の場合(その年の1月1日現在で所有期間が5年を越える土地の譲渡)
特別控除 5,000万円
課税譲渡所得金額4,000万円以下の部分 所得税15% 住民税5%
課税譲渡所得金額4,000万円超の部分 所得税20% 住民税6%
計算例
道路用地として12,000万円で長期譲渡した。この部分の取得費は1,000万円であった場合
1.所得金額 12,000万円-1,000万円-5,000万円=6,000万円
2.所得税額 4,000万円×15%+(6,000万円-4,000万円)×20%=1,000万円
3.住民税額 4,000万円×5%+(6,000万円-4,000万円)×6%=320万円
なお、取得費が不明の場合は譲渡収入金額の5%を取得費とすることができる。
(ロ)代替資産の特例
公共事業用地を譲渡した者が税務署の承認を受けて、契約後2年以内に(特別の場合は最長8年6か月以内に)代替資産を取得した場合は、「代替資産の課税の特例」が適用され、譲渡金額から代替資産の価格が控除されます。
譲渡所得金額が代替資産の価額以下なら課税されません。
ただしこの代替資産を将来譲渡すると代替資産の取得費に替えて、この公共事業に譲渡した資産の取得費を代替資産の取得費とされて譲渡所得額が計算され,更に代替資産の取得の時期は収用等された資産のものを引き継ぐことになります。つまり課税の繰延べが適用されます。
収用等の年末までに代替資産取得の見込みがないときは、代替資産の見積額、取得予定年月日などの明細を記載した申請書を確定申告書の提出日までに税務署に提出し承認を受ける必要がある。
課税譲渡所得所得の計算式
課税譲渡所得=A-B-D-C×(A-B-D)/(A-B)
A:譲渡資産の対価補償金
B:譲渡費用
C:譲渡資産の取得費
D:代替資産の取得費
計算例
取得価格300万円の土地が6,000万円で買収され、その代金で5,000万円の代替地を購入することとした。譲渡費用は0であった場合
6,000-5,000-300×(6,000-5,000)/(6,000)=950
課税譲渡所得は950万円
2.代替地提供者の特例
事業用地を譲渡された方の代替地として、事業施行者に土地を譲渡した場合には、1500万円の特別控除が認められます。
この特例を受けるためには事業用地提供者、代替地提供者、起業者の三者による契約(三者契約)をする必要があります。
代替地の代替地についてはこの特例はありません。
3.配偶者控除額及び扶養控除額の変更
配偶者又は被扶養者が補償金を受け、譲渡所得が一定の限度額を越える場合、その年分の配偶者控除または、扶養控除が受けられないことがあります。
住民税
配偶者控除額及び扶養控除額の変更
配偶者又は被扶養者が補償金を受け、その方の譲渡所得が一定の限度額を越える場合、本人のその年分の配偶者控除または、扶養控除が受けられないことがあります。
不動産取得税
契約の日から2年以内に補償金で代替資産を取得した場合には、群馬県の行政事務所県税部(全国的には県税事務所等)に不動産取得税減額申請書を提出することにより、不動産取得税が減額されます。
固定資産税
譲渡した土地の固定資産税は譲渡した年の翌年以後課税されなくなります。固定資産税は一月一日のその土地の所有者が一年分の税額全額を納税します。
国民健康保険税(料)
加入世帯の場合、譲渡所得も課税標準の対象となりますので、譲渡した翌年の保険料が上ることになります。
相続税・贈与税の納税猶予
農地の相続税や贈与税の納税猶予を受けている人は、譲渡した農地に見合う税額を納めることになります。
この場合には、利子税が2分の1になる特例があります。
◎ 課税の特例については、補償金のすべてが控除対象になるとは限らず、また、課税決定権限は税務署等の課税当局にありますので、確実なことは所轄の税務署等に相談して下さい。
年金
補償金の額によっては、次の年金の支給額が変わる場合があります。
農業者年金 (土地収用法3条に列挙されている事業等一定の事業で、農業者年金基金に申請し、認められれば支給停止にならない。)
老齢福祉年金
障害基礎年金
恩給
保育料
補償金により所得税額が上がった場合は、翌年の保育園の保育料が上がります。(前橋市の例)
高額納税者一覧表
補償金を受けたことにより所得税納税額が1,000万円以上になった場合は、地方新聞の高額納税者一覧表(いわゆる長者番付)に載ることになり、これがさまざまな影響を及ぼすこともあります。